序列競争秩序からの脱却  沖縄随想13

浅野誠

2025年03月24日 19:00

前回述べたような状況の広がりの中で、個人としてのアイデンティティ確立のためには、序列競争において上昇していくのではなく、序列競争秩序そのものから抜け出していくことが課題となる。また、格差拡大が作り出す沖縄アイデンティティを薄める力学を抑え込むためにも重要な課題となる。
その際、アイデンティティ形成に伴う誇り・自信(セルフエスティーム)形成、そしてそれらと対照的な恥意識・自己卑下・自己否定の形成にどう対処するかが必要になる。それはまた、他者否定や、憐み意識といったマイナス感情への対処も必要となる。
これらと並んで、障がい、ジェンダー、性的マイノリティ、民族的マイノリティなどへの対処といった課題が並行して存在している。
これらの対処にかかわって、1980年代ごろより少数者差別を人権問題として重視する思潮が世界的に広がっていき、沖縄でもそうした渦が広がり始める。そうした問題がアイデンティティ形成に深くかかわっていく。
以上述べてきたように、アイデンティティ問題には、いくつもの課題が併存している。そして、個人レベルと沖縄といった地域レベル社会レベルのものとが併存し絡み合っていることに注目したい。
また、この個人レベルと地域・社会レベルの双方における歴史変化にも注目したい。たとえば、19世紀以前の士族・農民といった身分と結び合ったアイデンティティは、その後いくつかの転換点を経て、フェイドアウト(徐々に消滅)してきた。そして、学業成績による序列競争秩序に結びついたアイデンティティのように、新たなものがフェイドイン(徐々に登場)してきた。また、沖縄という地域を超えたつながりの増加のなかで、新たなアイデンティティがつくられていくだろう。個人レベルにしても、子ども期と成人期とではアイデンティティが大きく変化する例は、ますます増えている。



写真は本文にかかわりなく、朝の海岸遊歩道風景

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